2019年上半期に書いたものについて語る


 修羅場だな、と思っていたら既に2019年が半分終わってしまっていた。衝撃だった。ここ半年はありがたいことに絶え間なく何かしらの依頼があり、忙しくさせて頂いた。本当にありがとうございます。これらの全ては読者の皆さんがこの二年間しっかり推してくださったからであり、何と御礼を申し上げていいか分かりません。これからも精進致しますので、何卒よろしくお願いいたします。
 この感謝の気持ちってどう表現したらいいか分からないな、何しろ人間の感情って証明出来ないのだから、という焦燥から生まれたのが「夏の終わりに君が死んだら完璧だったから」なので、7月25日は何卒よろしくお願いいたします。発売されたらこれもあれこれ言おうと思うのですが、色々な思いを詰めました。それにしても、かつてあんなにお金の話ばかりしている青春小説があっただろうか、みたいな話になりました。お金は人を狂わせるので仕方がない。
 というわけで、忘れない内に手帳に書き留めておいた脱法小説などのあとがきを載せておく。口調やトーンが違うのは、その時々のメモを参照している為です。

■2019年上半期あとがき

「奉神軍紀
 何故か年初めにやったのが集英社ヤングジャンプで漫画原作という色々と跳ねた仕事だった。小説家として仕事をしていたところに漫画原作の依頼を頂き、異例のスピードで読み切り掲載が決まった数奇な作品。これやあれやが重なり、2018年末はスケジュールが死んでいたのだが、無事に出来た。今回の作品はまず忠介というキャラクターが先にあり、このキャラクターを軸に脚本を書くという形だったので、色々と大変だった。あとは時代背景を調べるのに尋常じゃなく手間を掛け、参考文献が20冊を優に超えている。これの台詞を細々と直しながら「夏の終わりに~」の初稿を書いていたので、感情が凄いことになっていた。
 この経験は本当にいい経験になった。というのも漫画の文法というのを初めて知ったのだ。私の小説を読んで「斜線堂有紀に原作をやらせてみたい」と思ってくれた編集者の皆さんには感謝しかないのだが、如何せん漫画には漫画の文法がある……というのを知った仕事だった。私の小説は地の文も台詞もとにかく長いので、ネームでゴリゴリ台詞を直す作業が必要だったのだ。小説ならいくらでも喋れるけれど、漫画はサクッと必要なことを、しかも効果的にかっこよく言わなければいけない。52Pという初めての仕事で取り組むにはあり得ないページ数のボリューム感の把握などにも骨が折れた。作画担当の石黒先生には大変迷惑を掛けたものの、終わってみれば楽しかった。
 何よりヤングジャンプは読者としてずっと読んでいた雑誌なので、それに自分の作品が載るというのはなかなか感慨深かった。「嘘喰い」や「ゴールデンカムイ」で情緒を育んできたので、本当はじんわり泣きそうな気分だった。このような機会が与えられて嬉しい。
 これをきっかけに集英社さんにディープに関わっていくことになったので、色々と楽しみですね。その所為で今なおスケジュールが大変なことになっているのだけど、身体を壊さない程度に頑張りたい。

「僕は本山らのに恋をする」
 本山らのちゃんが好きなので夢小説を書こうと思ったら自分が死刑囚になってしまった。
 テーマはキュレーションだったのですが、少し迂遠な仕上がりになりました。『自分の作ったAIが作ったAIが殺人を犯してしまったことで死刑囚になる』という自分と距離のあるものの責任の話。あるいは『自分が書いたものではない物語にある種の責任を持ち光を当てる』本山らのちゃんの話。実際的な距離があるものに自分の名前を冠してふれあうのは愛だよな、キュレーターであるらのちゃんは愛の使徒なんだよな、という話です。
 人間は物語である、というのもずっと支柱にあるテーマであり、この物語の本山らのはそれを告げる立場ですが、そんな彼女も素敵な物語。だからこそこのアンソロジーが編まれたのだ……。
 こちらのアンソロジーは通販やらのちゃんフェアをしているアニメイトで入手出来るようなので、是非ともお手に取って頂けると幸いです。

「煉獄の変奏、あるいは一切の希望を捨てよ」
 人生は如何様にも転ぶな、というが頭の中にあるので、こういったパラレルワールドを考えるのが本当に好きである。うっかり人生がバッドエンドに転んでしまった瀬越俊月の物語。それでも人生は続く。歴代で一、二を争うほど俊月を書くのが楽しいので、いくらでもその人生について考えてしまうキャラクター。カニバリズム描写を描く為に肉料理のレシピ本を大量に買い込んだ。
 鞠端のような何も大義の無いクズを書くのもあまり例が無かったので、その点でも楽しかった物語。それ以外は結構辛い気持ちで書いた。俊月のことを真面目に考え過ぎた。
 テーマは同一化。追想を重ねていった結果、理解しえなかった彼岸に立つ怖さのようなものを考えていて、好きな人が脳内に居れば侵食が始まるという話。小鳩がそれっぽい理屈で俊月を誑かしていましたが、あれは詭弁ではなく小鳩の信じる真理で、地獄への道は理屈で舗装されている。それでもその手を取らなかったのは、本物の小鳩が地獄から止めたのかもしれない。イマジナリーの自分に取られるのも癪に障るので。
 ちなみに小鳩と決別する為にイマジナリー小鳩にやってもらったとある行動──本物の小鳩が絶対にやらないこと、には最初はちゃんと描写があった。具体的に言うなら、あそこでイマジナリー小鳩が自分の目を抉る描写があった。
小鳩はその目に映るものの殆ど全てを愛しているので、恐らくこれが一番やらないことだ……と思って書いたのだけれど、書き終わって気づいた。これは俊月が見ている幻覚なのだ。俊月は幻覚だろうが何だろうが小鳩が傷つくところを望まないので、イマジナリー小鳩にそんなことをさせるはずがない。小鳩も絶対にしないだろうが、俊月も絶対にさせない。
そういうわけで、この描写も没になった。あの任意の行動の中身は『小鳩は絶対にやらないだろうが、なおかつ俊月が望むもの』という面倒な縛りがつくこととなった。
 これも色々とあてはまるものがあると思うのだが、結局のところその後に言う「死んじゃってごめんね」以上にありえないことも求めることもないのだと思う。
 俊月関連は大体語り終えたのだけど、とにかく彼のキャラクターに入れ込んでしまったので、これからどうなるのかは分からない。

「嗜好審美研究会の頑張り部室争奪録」
 語るのが一番難しい……というより、これはキャラクターを固める為に、とある長編の前日譚を書こうという試みだった。ラストに異常に不穏な文言があるのはその為。テーマはお前の所為で人生滅茶苦茶だよ、のアッパーなパターン。共に栄華を極めたその後、雪を見に行くの文言と共に失踪される。いつか出るかもしれない後日譚での関係性の狂いっぷりを楽しんで頂けると頂けると幸いです。
 ミステリー的なテーマは主人公が詐欺師というか犯人側。これでどんでん返しをやろうという縛りを入れている。


 「狐神計画」

半年前からのろのろと書いていたもので、とあるVtuberにドハマりした結果出来た本格SF。何だか情緒が実った気分。ある意味わたまでと同テーマを扱っている。神性は何処に宿るのか、文化はいつ終わるのかの話。のじゃろりを書くのが好きだなと思ったのですが、ニテ様のようなキャラクターじゃないと書くのが難しい……!


 この半年こつこつと作業をしていたことが下半期で世に出るので、楽しんで頂ければ幸いです。多分どれも作風やジャンルが違うので、どれかを楽しんで頂ければ嬉しい。どれをも楽しんで頂けたら嬉しい。7月も頑張ります。本当に皆さん、半年間お世話になりました。