人生初の羊羹を語る

 生まれて初めて羊羹を食べた。

 


 二十五年以上生きているが、羊羹を食べたことが無いと言ったら、どんな人生を送ってきたんだと言われてしまったが、割と普通に生きてきたものの羊羹を回避しながら生きてきてしまった。あんこは嫌いじゃないし、むしろ好き。というか羊羹を食べた人がそんなに沢山いるというのも信じられない。価値観のパラダイムシフトだよ。

 甘い物は好きだったように思う。小さい頃に好きだったものはミルクレープと消えちゃう!!キャンディ。自分の住んでいた地域にはこのみせかしやという大きなお菓子屋さんがあって、そこに行くと籠一つ分のおかしを選んでいいことになっていた。私は嬉々として籠にポケパチを入れていた。つまり、幼い頃からおやつの選択権が子供である自分にあったのだ。

 ここで問題だ。どう考えても選択肢に羊羹がポップしないのである。
 
 ここで羊羹をいきなり選ぶのはかなりハードルが高い。羊羹にはピカチュウもついていないし、パチパチの飴もついていない。子供にとって羊羹とは黒い四角以上の何ものでもないのである。子供が羊羹を食べたいと言い出さないから、両親も羊羹を食べさせようという気持ちにならない。小さい頃の自分にとっては羊羹とはドラえもんのび太くんがごく稀に食べているもの、というイメージであるが、のび太くんはおやつのアイスには大喜びするものの、羊羹ではあまりはしゃがないのである。結構淡々と食べている。なので食指が動かなかった。
 おまけに羊羹の老舗、とらやさんと言えば父がよく取引先に持って行くものの筆頭だった。とらやの羊羹は何か偉い人が食べるものなのだなというイメージが付いてしまい、ただの民草である自分がわたパチと一緒に食べるものではないのだなと思ってしまった。


 そういうわけで、羊羹を食べずに育ったのである。
 正確に言うなら羊羹を食べるタイミングを失い続けてここまで来たのである。

 そうしたら、みんなは知らない間に羊羹を食べて大人になっていた。嘘だろ、みんないつの間に食べていたんだ。みんなのファースト羊羹はいつですか? それは自ら選び取ったものですか? どうせ自我の無い羊羹(自我が無いときにサッと出されてうっかり食べてしまった羊羹)だろう。

 私は違う。大人になって自分で選んだ自我羊羹だ。

 リプライでとらやさんのものとセブンイレブンさんの羊羹を勧められたので、両方買ってみることにした。

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とらやさんの羊羹にはポエムが書いてある


 とらやさんで「一番基本的なものをください」と言ったら『夜の梅』を勧められた。とらやの羊羹は夜から始まる。

 そして、私は食べた。自我のある状態で、羊羹を。

 

 

 あんこ味のゼリーの味がした。

 


 イメージ的にもっと衝撃的な甘さを想像していたのだが、鯛焼きの中のあんこなどより数倍すっきりしていた。さらさら食べられる。とらやさんのは外側のつるつるの部分がいいアクセントになっていて、舌触りがよくなめらかだった。あんこってこんなになめらかになるんだな。一方、セブンイレブンさんのは私が想像していた羊羹に近かったような気がする。まめまめしく、しっかりと甘い。これはのっしりとした重みと甘さがあり、ゼリー感は薄かった。

 これが羊羹か……と思った。夏に食べるのにいい甘みだ。
 Twitterでこんなにみんなが羊羹を食べていると知らなかったら、一生食べることはなかったと思う。

 今、世界がこんなことになってしまって、目新しい挑戦をするのが難しくなってきているように思う。自分は旅行が好きだったので、特に海外に行けなくなってしまったのは悲しい。けれど、冒険は身近にもあるものなのだ。今日は初めての羊羹に感動したので書いておこうと思う。

 ところで、みんなはあんみつを食べたことはあるんですか? それは自我のあるあんみつですか? あんみつとは……。